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2011/10/5

Vol.19  「イギリス紀行―フェルメールを求めて」

 

 第50回記念ヨーロッパ小児内分泌学会(ESPE)がイギリスのグラスゴーで開かれ、日本小児内分泌学会との交換講演の演者として今回私が日本小児内分泌学会から選ばれた。この機会を利用して、妻、長女、次男との観光旅行も兼ねて22日に成田を発った。妻の目的は、イギリスにあるフェルメールの作品を観ることで、今回もそのために特別に、ケンウッド・ハウスの観光を組み込んでもらった。

 イギリスには10数年前に行ったおりにお願いした池本さんというガイドさんがとても印象的で楽しかったので、今回もお願いすることになった。池本さんは、普通の一般的な観光ガイドだけでなく、なぜそのようになったのかを歴史的な問題から解き明かしたり、英語の言葉にまつわる歴史などを教えてくれたりして、こちらがなるほどと納得するガイドをしてくれた。その時に案内してくれたロンドン郊外の村がとてもきれいで、そこで今回も妻たちにその美しい村を見せてあげたいと思い、また池本さんにお願いした次第である。池本さんは、前回ヒースロー空港に迎えに来てくれた時の服装が、黒い帽子に黒いマントだったから今回も期待していたが、普通の背広姿だったので少しがっかりした。
 
 
  

 
 23日は、まずロンドン郊外のコッツウォルズの美しい村々を回った。ロンドンから車で高速道路を北西に約1時間ばかり行ったオックスフォードのサービス・エリアで休憩。そのあと田舎道に入って行った。最初に行ったのはブロードウェイという村で、素朴な石造りの家が、それぞれ庭に花を植えて立ち並んでおり、クリスマスの飾りものの店がとてもかわいくて(写真1)、思わず立ち寄ってクリスマスのネクタイを買ってしまった。12月のクリニックの診察で、身につけてみよう。次に行ったチッピングカムデンは、藁葺き屋根の家が立ち並び、一味違う風情の美しい村である(写真2)。ストウ・オン・ザ・ウォルドという骨董品などで有名な村の “Old Butcher(古い肉屋)”という店で食事。子牛の肝臓や脳の料理、海鮮リゾットなどがあり、池本さんお勧めの子牛の肝臓は、なかなか美味だった。ボートン・オン・ザ・ウォーターという村は、村を流れる小川の周りに芝生が広がり、のんびりする美しい風景だった(写真3)。最後にオックスフォードによって、映画ハリー・ポッターの食堂に使われた場所があるカレッジなどを見て回った。いたるところに市のトレードマークであるオックス・フォード(牛と小川)の看板があり、写真4の「Public Convenience」は、コンビニ・ストアではなくて、公衆トイレだった(右側が市のシンボル・マーク)。この間にも、池本さんは「1616年は、徳川家康、シェークスピア、セルバンテスが亡くなった年で、イロイロ(1616)死んだと覚えてください。」など歴史の年号の覚えかたまで教えてくれる。
 
 
  


 ロンドンに戻って、夜はエルトン・ジョンの作曲によるミュージカル「ビリー・エリオット」を観に行った。炭鉱夫のこどもがロイヤル・オペラ・バレー団に入るまでのサクセス・ストーリーで、出演者はほとんど子どもとおじさんばかり。言葉もなまりがあるせいかよくわからず、おそらくジョークで皆が大笑いしているのにもついていけなかったが、子どもたちが達者で、踊りも素晴らしく、非常に楽しめた。
 
 24日はロンドン市内巡り。今回バッキンガム宮殿の公開の日程に当たっていることを池本さんに教えられ、急遽バッキンガム宮殿を観ることにした。9時半の切符販売予定なので9時15分頃に行ったところ、すでに長い行列。1時間ぐらい並んで買った入場券は、12時30分の分だった。それまでの間、運転手ピーターが運転するミニ・コーチ(といっても30人乗りぐらい乗れる小型のバス)で市内観光。タワー・ブリッジでは、運よく橋が上がって船が通るのを観ることができた(写真5)。バッキンガム宮殿に入る前にサンドイッチを買って、宮殿前の公園で軽い食事をした。この公園には、リスやハト、ペリカンなどがいて、人から食べ物を貰っていた(写真6)。また、12時に衛兵の交代があり、警備を終えた衛兵がブラスバンドと主に宿舎まで行進するのだが、池本さんに教わって宿舎前に居座って、目の前を衛兵が行進していくのを観ることができた。
 
 
  


 バッキンガム宮殿の中は、エリザベス女王の公邸および執務の場であるが、国会が休会の間、女王がスコットランドに出かけている8月9月に2ヶ月ぐらい公開しているとのこと。ジョン・ナッシよって改装された装飾が素晴らしく、特に天井の模様が美しかった。結婚式の日にウイリアム王子とキャサリン妃が家族と記念写真を撮った部屋も観ることができた(写真7-実際には撮影禁止なので、写真を写したもの)。宮殿のクウィーンズ・ギャラリーでは、ダ・ビンチやラファエロの作品とともに、フェルメールの「ヴァージナルの前に座る女」を観ることができた。また王室コレクションから宝石で飾った小さな装飾品も、素晴らしかった。宮殿のおみやげ屋では、チョコレートを買いこんだが、日本語版の宮殿解説書は、日本人観光客が多いため、売り切れていた。1日入場者が4万人もいるので、相当もうけると池本さんは計算していた。
 
 


 その後Burberry、Paul Smith、Libertyなどでショッピング。池本さんが、明日の夜のディナー・クルーズを予約してくれたので、チケットを三越まで取りに行って、そこでもまたショッピング。

 夜は、オペラハウスに、グノーの「ファウスト」を観に行った。外観は近代的だが、中はヨーロッパの歌劇場で、歌手はどれも素晴らしく、演出も過激で楽しめたが、皆昼の疲れが出て、私も含めてよく居眠りをしていた。
 
 

 
 25日は、歩いて近くの施設めぐり。ナイチンゲールで有名なSt. Thomas Hospitalは、入口に「Welcome to St. Thomas Hospital」と大きく書かれているのにまずびっくり(写真8)。入るとカフェテリア、スーパー、美容室などが並んでおり、どこかのショッピング・モールのような雰囲気に、またびっくりした。日本の病院では、ちょっとみあたらない風景であった。国会議事堂のBig Benを背景に写真を撮り、議事堂の周りをめぐってウエストミンスター寺院にぬけそこからおなじみのミニ・コーチに乗って大英博物館に向かった。

 大英博物館に行って池本さんの解説付きで、まずロゼットストーンから観回り始めた。象形文字の読み方から始まって、なぜ考古学者が遺跡を探しているのかという原点まで、アイパッドを使いながらのよどみない解説に1時間はあっというまに過ぎてしまった。分かったことは、旧約聖書をもとに遺跡が探されており、多くの遺跡が旧約聖書の内容を裏付けており、展示もそれに沿っていることに驚いた。

 その後郊外のケンウッド・ハウスへ行った。ここは18世紀末にマンスフィード卿が改装した古い館だが、後に購入したギネスビールの創立者の曾孫にあたるアイヴィ伯爵の蒐集した美術品を展示している。お目当てのフェルメール「ギターをひく女」は、他の絵と共に何気なく展示されており、見過ごしてしまいそう。フェルメールだけでなく、レンブラントの後期の「自画像」や、ヴァンダイク、ターナーなどの作品も展示されていた。

 昼食に池本さんが連れて行ってくれたケンシントン・ガーデン横の中華料理「海鮮酒家」は、ロブスター焼きそばが有名で、焼きそばの上に殻ごとぶつ切りしたロブスターが、山盛りになっており(写真9)、おいしさ満杯。
 
 


 午後はナショナルギャラリーで、まずフェルメールの「ヴァージナルの前に立つ女」を観たが、そのほかにも、ダ・ヴィンチの「岩窟の聖母」、ゴッホの「ひまわり」、ベラスケスの「鏡を見るヴィーナス」、ルーベンスの「帽子をかぶった女」、ルノアールの「劇場にて」「日傘」、モネの「水連」など有名な絵画がたくさん展示されており、約1時間の鑑賞時間ではとても足りなかった。

 今日の夜のディナー・クルーズは、ジーンズ、スニーカー禁止なので、スニーカーしか持ってこなかった長女の靴を三越のなかにあるフェラガモで買わされる羽目になった。クルーズは、ホテルから歩いて15分ぐらいの桟橋から夜8時に出発した。ロンドン橋やタワー・ブリッジがライトアップされ、美しいロンドンの夜景を、ワインにラムステーキをともに楽しんだ。船にはバンドが入っており、帰りにはダンスタイムで、妻とのダンスも足が絡まりながらも楽しんだ。
 
 26日は、グラスゴーへの移動だけなので、久々にゆっくり寝てゆっくり朝食を食べ、10時30分に空港に向かった。グラスゴーに着いて、池本さんは我々を空港から直接ケルヴィングローブ美術館に連れて行ってくれて、ダリの「聖ヨハネの十字架のキリスト」(写真10)を見せてくれた。奇抜な絵を描くダリが、こんなリアルな絵を描くのかという驚きとともに、磔になったキリストを上から描いたその迫力に圧倒された。
 
 


 ホテルにチェック・インしてから、ESPEの学会場へ行ってregistrationをすませ、「早期GH治療の是非」のシンポジウムを聴いた。久しぶりに、昨年日本からアメリカへ行った患者さんを紹介したCohenと会った。

 夜は、池本さん推薦のイタリア料理店で、ビール、白&赤ワイン、カラマリ、ハンバーガー、ステーキ、ピッツァなどお腹いっぱい食べて、”I am stuffed”。
 
 27日からは、私はESPEにずっと出席し、家族はグラスゴーからロンドンの航空券がとれなかったので、今日エジンバラに行って、明日エジンバラからロンドンに行ってそこで合流することになった。後から妻から、エジンバラでフェルメールの「マルタとマリアの家のキリスト」を観て、イギリスのフェルメールは全部観ることができ、またいろいろ池本さんにガイドしてもらって楽しかったと報告を受け、私もエジンバラへ行きたかったと切に思った。とは言っても、私の今回の仕事はESPEで発表することなので、27日は思春期のセッション、思春期遅発症のシンポジウムなど聴いて回った。この間にも、今回の会長のKelnarや、ドイツのRanke、フランスのCarrel、スウェーデンのBengtsson、Albertsson-Wikland、オランダのWit、オーストラリアのWarne、スイスのSizonenko、イギリスのClayton、アメリカのGrumbach、患者を紹介したSavageなど旧友に会って懐かしく近況を話し合った。人のことは言えないが皆歳をとっていた。思春期遅発症のシンポジウムでは、この10月に私が企画した「Growth and Puberty II」の国際シンポジウムに演者として招待しているDunkelとPittlordに改めて会って、日本でよろしくとお願いした。イスラエルのLaronは、もう80歳ぐらいだが、あいかわらずactiveで、彼が編集長、私がアジア地区の副編集長をしている「Pediatric Endocrinology Review」に、日本からも総説を書くようにと、またせっつかれた。

 夜は、EPES 50周年記念演奏会がヨーロッパ室内合奏団によって学会会場で演奏されたが、これが驚いたことに日本の東北大震災で被害を受けた子どもたちのためのチャリティー・コンサートとして開かれ、義援金を集めていたことである。演奏は、モーツァルトのディヴェルティメント、チャイコフスキーのアンダンテ・カンタービレ、ドヴォルザークのセレナーデなどポピュラーなクラシックだったが、そのレヴェルは高く、指揮者なしで女性のコンサートマスターが30人あまりの合奏団をリードしていた。モーツァルトのアイネ・クライネ・ナハト・ムジークではじまった曲は、あちらこちらにスコットランド民謡がちりばめられており、楽しめた。その後、高校生によるバグパイプの合奏団と踊りの特別演奏もあった(写真11)。
 
 

 
 28日はESPEの最終日で、成長ホルモンの安全性に関してのシンポジウムが開かれ、昨年の9月にフランスからの発表された、高用量(50μg/kg/週以上。ちなみに日本の成長ホルモン分泌不全性低身長症の治療量は、25μg/kg/週)の成長ホルモン治療を受けた成人の死亡率が高いという問題が細かく報告され、会場から十分なエビエンスがないという批判が多くあり、発表責任者のCarrelは、当局によって公表されてしまったと、発表が未熟であったことを認めていた。同時に、FDAや日本小児内分泌学会の「エビデンスが不十分なので、いままで通り治療を続けた方が、メリットが大きい」という早期の見解発表が評価されたのに、なぜESPEで見解が発表されないのかという不満の意見が、ESPEの会長であるChiarelliからなされ、会場から賛同の拍手がわき起こった。

 学会の最後の講演が、私が発表するESPE/JSPE(日本小児内分泌学会)の交換特別講演で、きっちり30分という厳しい制約があったので、さすが今回は発表原稿を作って、前の晩より何回も原稿を練り直した。講演の最初にまず、日本の子どもたちへの援助に対しての謝意をのべた後、小児の成長の特性、低身長思春期発来、性腺抑制療法、とくに蛋白同化ホルモン併用療法の有効性について、きっちり30分講演した(写真12)。発表後の討論の時間はなかったため、会場からの反応は判らなかったが、帰り際にアメリカのRossや、中国の医者、空港でポーランドの医者から良い発表だったと声をかけられた。
 
 


 発表後、すぐグラスゴー空港へ行き、ロンドンヒースロー空港に飛んで、家族と合流した。
 
 長い旅で、最後に発表というプレッシャーのあった旅であったが、池本さんのおかげでグラスゴーに行くまではプレッシャーを感じずに楽しく過ごし、妻は予定していた以上のフェルメールを観ることができた有意義なイギリス旅行だった。またイギリスに行く機会があったら、池本さんにガイドを頼もう。
 

 

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