Q&A
Q1.生活習慣で、成長を促進することは出来ますか?
A1. 子どもの成長には、多くの要因が影響を与えます。体の中の要因(内的要因)としては、遺伝的要因やホルモン、代謝などがあり、外からの(目に見える)要因(外的要因)としては、栄養、感染、薬剤、情緒・精神的環境、運動、睡眠などがありますが、基本的には、内的要因が成長に重要な要素です。
外的要因のうち、生活習慣としての栄養・睡眠・運動は成長に大きく影響します。栄養が悪いと成長が悪くなることは、よく理解できると思います。特に生まれてから3~4歳までの栄養は成長に重要で、6歳時に低身長の子どもの6割以上は、ミルクの飲みや離乳食の食べ具合が少なく、その後も少食だというデータがあります。しかしこの時期、飲まない子に飲ませる、食べない子に食べさせるのは不可能ですので、あまり神経質にならない方がよいと思います。
睡眠時間が極端に短いと、やはり成長率が落ちます。小児期は、成長ホルモンは主に睡眠時の深い睡眠中に分泌されて、成長に働いているからです。午後10時から午前2時までに分泌されるという説が巷に流れていますが、成長ホルモンは時間で分泌されるものではありません。40年以上も前に、深い睡眠と一致して分泌されるので、昼でも深く寝れば分泌されることが世界的な学術雑誌に掲載され、確かめられています。しかし睡眠は一定以上の睡眠時間がないと、成長に必要な量の成長ホルモンが分泌されない可能性があります。睡眠は、深い睡眠と浅い睡眠を交互に行っており、深い睡眠の時に成長ホルモンが分泌されているので、成長ホルモンの分泌が睡眠中に繰り返しておこります。成長のためには、ある程度の成長ホルモン分泌量が必要です。従って、睡眠の質と長さが重要なわけです。しかし、長く寝ても後半は眠りが浅くて夢を見ていることが多いので、あまり成長ホルモンは分泌されません。小学生では8時間以上、中学生以上では7時間以上の睡眠があればよいと思います。
運動は、それ自体では成長を促進するわけではありませんが、運動することにより代謝を亢進しておくことで、成長しやすい身体を保つことができます。しかし過激な運動で疲れて十分食事量がとれない状態では、体重が減ると同時に成長率も低下します。運動をしても、運動で消費したカロリーを補充する分しっかり食べて、体重が増えていれば成長が障害されることはありません。
大きな病気をすると、成長に影響することがあります。薬剤では、ステロイドの投与は、量が多いと成長を阻害します。親から愛情を十分に与えられないと、著しい成長障害をきたすことがあります(愛情遮断症候群)。これらの外的要因は、成長を妨げる要因として働きます。しかし、これらの外的要因の改善は、子どもの持っている内的な要因を十分発揮させる環境を作るだけで、その子どもなりの内的要因のもっている成長以上の成長は期待できません。睡眠時間を普通以上に長くしても、その子どもなりの成長率以上になることはありません。
子どもの成長曲線が標準成長曲線に平行に伸びていっていることは、その子どもの内的成長能力がきちんと発揮されていること、すなわち外的要因による妨げがないことを表しています。生活習慣としては、規則正しい普通の生活をすることで、外的要因による成長の妨げを阻止することができますが、それ以上の成長の促進は期待できません。しかし、生活習慣を整えることは、成長のための基礎的な条件です。
Q2.「身長を伸ばす効果がある」と宣伝されているサプリメントは、効果がありますか?
A2. 身長を伸ばす効果があるとされている物質が、インターネットなどで宣伝されていますが、それらが成長を促進するという根拠が学術論文に掲載され、確認されたことはありません。それらの製品には、1.カルシウム、鉄、ビタミンDを含んだサプリメント、2.成長ホルモンの分泌を促進する物質を含むサプリメント、3.成長ホルモンを含むスプレーなど、があります。日本小児内分泌会では、科学的な立場からそれらについて評価をしています
(http://jspe.umin.jp/参照)。
カルシウムや鉄、ビタミンDなどの栄養要素の不足により成長が阻害されている場合、たとえは乳幼児期のビタミンD欠乏性くる病などでは、ビタミンD補充により成長は正常に回復します。しかし、これらの栄養要素の不足がない場合には、これらの栄養機能食品を投与しても成長が促進されるという客観的なデータはありません。カルシウムは、骨を強くする作用はありますが、成長促進作用はありません。よく宣伝している「セノビック」も、日本小児内分泌学会からの誇大宣伝の指摘を受けて、小さな字で「セノビックを飲んだからといって、身長が促進するわけではない」との但し書きを入れています。
成長ホルモンの分泌を促進するといわれている物質を含むサプリメントは、アルギニンが有名ですが、アルギニンを服用して成長ホルモンの分泌が増えて成長が促進したという科学的なデータが、信頼できる学術雑誌に報告されたことはありません。そのほかの宣伝されている物質に関しても同様です。成長ホルモン分泌刺激試験に用いられているGHRP-2という薬の点鼻のスプレー製剤が開発され、主に軽症・中等症の成長ホルモン分泌不全性低身長症に投与されてその効果が検討されました。治療前に点鼻により血中成長ホルモンの分泌が十分確かめられた子ども約120人を3群に分け。プラセボ(偽薬)、低用量、高用量を1年間投与しましたが、1年間の成長率に3群間(5.3cm/年、5.2cm/年、5.3cm/年)で全く差がありませんでした。このように、成長ホルモンの分泌を促進する効果が明らかな薬でさえ成長が促進することができないことから、薬効が明らかでない「成長ホルモン分泌促進薬」が効くとは全く考えられません。
成長ホルモンは、やや大きめなサイズの蛋白ですので、鼻や口の粘膜からはほとんど吸収されません。多くは胃に入って加水分解され、アミノ酸に分解してしまいます。たとえ少し吸収されたとしても、成長ホルモンスプレーで成長ホルモン注射と同じ効果が認められるためには、成長ホルモン注射よりよほど高濃度のスプレーを投与することが必要ですが、効果を宣伝されたスプレーの中の成長ホルモンの濃度は、注射液よりも非常に低いこともわかっています。
さまざまな効用をうたったサプリメント等が発売されていますが、ほとんど医学的根拠がなく、サプリメント等で身長を伸ばすことは期待できません。効果がないからサプリメントなので、効果があれば薬になります。