思春期

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 性腺機能低下症

男性性腺機能低下症の診断と治療

 

I.男子の思春期の成熟

 
 思春期は、性ホルモンの分泌により思春期の体の変化(二次性徴)と急激な成長速度の亢進(思春期のスパート)がみられ、男の子は男の子らしい体つきに変わり、最終的に生殖能力を獲得し、身長発育が止まって大人になっていく時期です。男子は、思春期に精巣(睾丸)の発育、陰茎の発育、陰毛の発育、声変わりと成熟していきます。
これらの二次性徴の始まりと成熟は、性ホルモンと性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン:LH 黄体形成ホルモン、FSH 卵胞刺激ホルモン)の働きによるものです。性ステロイドホルモンは、男性ではテストステロンという男性ホルモンが精巣(睾丸)から分泌されます。これらの性ホルモンの分泌は、頭の中にある下垂体という器官から分泌される性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)によって調節されており、特にLHが男性ホルモンの分泌を刺激し、FSHは精巣を増大させ精子形成に働きます。また性腺刺激ホルモンの分泌は、さらに中枢の視床下部から分泌されるゴナドトロピン放出ホルモン(Gn-RHまたはLH-RH黄体形成ホルモン放出ホルモン)によって調節されています。
男子が思春期をむかえると、ゴナドトロピンの分泌が促進されることにより、精巣が大きくなり、男性ホルモンが分泌されて精巣(睾丸)が大きくなります。思春期の開始は精巣(睾丸)が4mlに発育した時点と定義されていますが、一般にはほとんど気づかれません。我が国における正常の二次性徴の出現年齢は、男子で精巣の発育が9.5歳-14.0歳、陰毛の出現が10.5-15.0歳、変声や髭・腋毛の出現が12.0-16.0歳とされています。思春期の始まり(精巣4ml)の平均年齢は、男子は11歳6ヶ月です。活発になった性ホルモンの働きによる二次性徴の成熟とともに、成長ホルモンの分泌も多くなり、身長が急激に伸び、平均最大年間成長率は、男子で約10cm/年に達します。思春期開始から成人身長に達するまでに、男子で約4~5年かかりますが、この間に20~40センチ伸びます。しかし、思春期の開始時期によって思春期の伸びは影響をうけ、個人差もかなりあります。
二次性徴と思春期の成長率の関係を示しました。男子では、二次性徴の開始時(精巣が4mlになったとき)には、まだ成長率は上がっていません。陰毛が発育する時期に最大成長率がみられ、声変わりはもう思春期の後期ですので成長率も低下しております。
 

II.男子性腺機能低下症の症状と診断

 
 性腺機能低下症の症状は、二次性徴がおこらない、または二次性徴が始まっても途中で停止または退行してしまうことです。従って、確定診断にはある程度の年齢に達する必要があります。厚生労働省の診断の手引きでは、男子で15歳になっても二次性徴が見られないものとされています。小児期より小陰茎、停留精巣、尿道下裂、無嗅症(Kallmann症候群)などの症状がみられることもあります。
 性腺機能低下症と鑑別が必要な疾患に、思春期遅発症や思春期遅発をおこす病態があります。思春期遅発をきたす病態には、心疾患・血液腫瘍疾患、腎疾患などの慢性疾患、体操やマラソンの選手のように過度のエネルギー消費、過度の肥満、甲状腺機能低下症・成長ホルモン分泌不全生低身長症などの内分泌疾患、栄養失調、神経性食思不振症、愛情遮断症候群、麻薬中毒者などがあります。
 性腺機能低下症には性腺自体に原因がある原発性性腺機能低下症とゴナドトロピン分泌不全による中枢性性腺機能低下症に分けられます。中枢性性腺機能低下症は、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(hypogonadotropic hypogonadism)とも呼ばれます。原発性性腺機能低下症の主な原因疾患を表1に示しましたが、染色体疾患、遺伝疾患、精巣の形成不全または退縮などがあげられます。中枢性性腺機能低下症の主な原因疾患を表2に示しました。DAX1異常症、Kallmann症候群や成長ホルモン分泌不全症に伴う多発下垂体ホルモン分泌不全症、間脳・下垂体腫瘍などによる下垂体機能低下症などがあげられます。
 原発性性腺機能低下症、中枢性性腺機能低下症および思春期遅発症の主な鑑別点は、成長とゴナドトロピンの分泌状態です。一般的に性ホルモンの分泌不全では低身長になりませんが、他の下垂体ホルモン、特に成長ホルモンの分泌不全を伴うと成長障害が認められ、また思春期遅発症は低身長の傾向が有ります。表3に主な疾患の鑑別を示しました。原発性性腺機能低下症の診断は思春期年齢におけるゴナドトロピンの高分泌を示しますので、比較的診断は容易で、高ゴナドトロピン性性腺機能低下症(hypergonadotropic hypogonadism)とも呼ばれます。
 中枢性性腺機能低下症および思春期遅発症の鑑別は、思春期年齢をすぎて遅発症において二次性徴が成熟すれば診断がつくが、その前には困難なことも多い。しかし前思春期においても、LHRHテストとhCGテストによりある程度の鑑別が可能です。中枢性性腺機能低下症においては、LHRHテストにおけるLHとFSHの頂値は正常範囲を下回ることが多く、またhCGテスト(hCG3日間投与)における血中テストステロンの反応は50ng/ml以下です(1)。検査によって中枢性性腺機能低下症が診断された場合には、MRIなどによって頭蓋内の器質的疾患の有無を検索することが必要です。DAX1異常症やKallmann症候群においては遺伝子診断が有用です。
 

III.男性性腺機能低下症の治療

 
1) 小児期における男性性腺機能低下症の治療
 小児における思春期は、二次性徴の成熟だけでなく、生殖能力の獲得(精子形成)の時期であり、かつ思春期の成長のスパートを経て成人身長を獲得する時期でもあります。したがって、可能な限り、これらの生理的な発達をなぞらえた治療を行うことが望ましいのですが、まだその方法は確立していません。また近年では、骨密度の正常化の必要性もいわれています。
 
2)原発性性腺機能低下症の治療
 多くの場合生殖能力の獲得(精子形成)は難しいが、顕微手術の発達で、Klinefelter症候群では体外受精による妊孕性の獲得も可能になってきています。
 精子形成が困難なときは、治療の目的は正常の成人身長の獲得と二次性徴の成熟となります。治療としてはテストステロンを用いるが、現在テストステロンのデポ剤と、院内製剤によるテストステロン軟膏(プロピオン酸テストステロン2.5g+親水軟膏47.5g)が用いられています。
 テストステロン・デポ剤のみで小児期から治療する場合には、最初から成人量を投与すると急速な骨年齢の促進がおこり、成人身長が低く終わります。そこで、表4のように低用量からテストステロン・デポ剤を投与していく方法が用いられています。また、図3に無精巣症の男子の治療経過を示しました。この症例は身長がほぼ標準なので、なるべく成人身長も標準にしたいと、12歳6ヶ月よりテストステロン軟膏を用いて徐々に二次性徴の成熟を促し、最終的にテストステロン・デポ剤の注射に切り替えることにより平均的な成人身長に達しました。いつ頃から開始するかは、まだ確立された方法はありませんが、日本人標準TW2法により骨年齢を正確に読影することにより、Growth Potential法(2)を用いてあとどの程度伸びるかの予想は可能なので、患者の希望成人身長との兼ね合いで治療開始の時期および方法を決めることになります。身長が低い男子の場合は、治療開始年齢を遅くする必要があります。しかし、あまり遅いと周りの子どもとの心理的な葛藤をおこす可能性や、骨密度が低くとどまる可能性があります。
 
3)中枢性性腺機能低下症の治療
 中枢性性腺機能低下症の治療においては、二次性徴の成熟、成人身長の正常化に加えて生殖能力の獲得がその治療目標になります。生殖能力の獲得のための治療法としては、LHRH間歇的皮下注療法とhCG-hMG/FSH療法があります。
 視床下部性で下垂体機能が正常の場合は、LHRH間歇的皮下注療法が生理的ではあります(3)。LHRH製剤(ヒポクライン注射液)を自動間歇注入ポンプを用いて、1回10~20μgを90~120分間隔で皮下注射します。しかし治療手技としては煩雑で、あまり実用的ではなく治療成績も芳しくありません。
  hCG-hMG/FSH療法は、hCG製剤(プロファシー注) 1,500~5,000 単位/回を週2~3回、およびFSH製剤(ゴナールエフ皮下注用)75-150単位を週2~3回皮下注を行います。小児期早期から始めるときは、hCG製剤の少量(500単位)を週1回ぐらいから開始し、二次性徴の進行と身長をみてから成人量に移行して場合もあります。
初期のhCG-hMG/FSH療法の臨床試験では、平均的には、3ヶ月でテストステロンの平均値が300 ng/dlを越え、12ヶ月で平均943 ng/dlに達する。テストステロンの反応をみてhCG製剤の量を増減します(最高5,000単位まで)。治験成績では、3年の治療期間で75%の症例に、精子形成が認められています(4)。
 図4に、Kallmann症候群におけるLHRH間歇的皮下注療法の経過を示しましたが、20μgに増量して1時的にテストステロンが上昇しましたが持続せず、精巣容量も5mlまでしか増大しませんでした。その後、この症例は16歳よりhCG-hMG/FSH療法(hCG 2500単位、hMG 75単位、週2回)に切り替えて精巣容量も20mlになり、血中テストステロンも700ng/dlを維持し、17X106/mlの精子形成が認められました(図5)。
 小児の場合、すぐに挙児を希望することはないので、テストステロン療法を行って二次性徴を成熟させてから、挙児希望の時にhCG-hMG/FSH療法に切り替える方法もあります。しかし、この方法で精子造成能の獲得をみた例も報告されていますが、テストステロン療法でhCG-hMG/FHSH療法に対する精巣の反応性が低下する可能性もあり、まだ確立した方法とはいえません。また、性腺機能低下症の男性が自分に生殖能力があることを確認することで女性とのつきあいに積極性が出ることもあるので、男子中枢性性腺機能低下症で妊孕性を重視する場合には、最初からhCG-hMG/FHSH療法を行うのがよいと思われます。
 HCG-hMG/FSH療法を行う場合も、成人身長を考慮しながら行うことが必要です。特に成長ホルモン分泌不全症を合併している場合には、hCG-hMG/FHSH療法の開始時身長が成人身長に大きな影響があります。低身長男子の思春期の伸び(思春期開始時より成人身長までの伸び)の平均は26.3cmですが、性腺機能低下症と成長ホルモン分泌不全症を合併している場合、通常性腺補充療法の開始年齢が遅いため思春期の伸びは低身長男子より少ないことがわかっています。思春期の伸びは、早く開始した方が大きく、遅く開始した方が小さいのですが、遅く開始した場合はそれまでの伸びの方が思春期の伸びの低下よりも大きいため、遅く開始した方が成人身長は高くなります。また、性腺機能低下症で性ホルモンが分泌されないと骨年齢は13歳前後で停滞します。骨年齢が13歳頃より徐々にhCG-hMG/FHSH療法を行うと、約10~15cm前後の伸びが期待できます。
 
4)今後の検討課題
 性腺機能低下症においては、思春期における骨密度の獲得が少ないと報告されており、今後治療法と骨密度の検討も必要と思われます。
また小児期にhCG-hMG/FHSH療法により精子数が正常(20 X 106 /ml以上)になり、すぐに挙児の希望がないときは、週1回のhCG-hMG/FHSH投与でもよいのかどうかも、今後の検討課題といえましょう。
 

文献

 
1) Sato N, Katsumata N, Horikawa R, Tanaka T. The usefulness of GnRH test and HCG test for differential diagnosis between delayed puberty and hypogonadotropic hypogonadism in prepubertal boys. Jpn J Reprod Endocrinol 8:49,2003
2) 佐藤真理、田中敏章、田苗綾子、他:Growth potential 法による低身長小児における最終身長の予測。日本小児科学会雑誌 108:1271,1998
3) 中井義勝、井村裕夫、熊原雄一、他.Luteinizing hormone-releasing hormone (LH-RH)による視床下部性性腺機能障害者の治療に関する研究。ホルモンと臨床 35:596,1987
4) 日比逸郎、田中敏章、諏訪誠三、ほか.低ゴナドトロピン性男子性腺不全症に対するFSH/hCG併用治療による臨床成績。薬理と治療 22:393,1994.