思春期・基礎知識
思春期に関連する身体的疾患
■思春期早発症
思春期早発症(Precocious Puberty)は、通常の思春期よりも早い年齢で性成熟が始まる状態を指します。
一般的に、思春期は女の子で10歳、男の子で11歳から始まるとされていますが、これよりも早い段階で二次性症の兆候が見られる場合が思春期早発症と診断されます。
性ホルモンの分泌が早期におこると、思春期の成長促進が起こりますが、性ホルモンは同時に骨年齢を進行させて早期に骨端閉鎖を引き起こすので早く成長が止まり、成人身長が低くなることがあります。
[主な特徴]
女の子の場合:
- 7歳6か月未満で乳房発育がおこる。
- 8歳未満で陰毛発生、または小陰唇色素沈着等の外陰部成熟、あるいは腋毛発生がおこる。
- 10歳6か月未満で初経をみる。
男の子の場合:
- 9歳未満で精巣、陰茎、陰嚢等の明らかな発育が起こる。
- 10歳未満で陰毛の発生をみる。
- 11歳未満で腋毛、ひげの発生や声変わりをみる。
[原因]
思春期早発症の原因は、GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)依存性、GnRH非依存性、部分的思春期早発症に分類されます。
GnRH依存性思春期早発症: 視床下部-下垂体系の活性化により、下垂体からのゴナドトロピン(LH,FSH)の分泌が早期におこることにより発症します。
- 特発性思春期早発症:多くは特発性(原因不明)です。
- 器質性思春期早発症:中枢神経腫瘍(視床下部過誤腫、視神経膠腫、神経線維腫症など)、頭蓋内病変(くも膜脳腫、水頭症、脳炎、頭部損傷など)などで発症することがあります。
GnRH非依存性思春期早発症: ゴナドトロピンは上昇していないが、性ホルモンの分泌が多いことによって発症します。非常に稀です。
- 性腺の病気: 卵巣(卵巣嚢腫、エストロゲン産生卵巣)、精巣(Leidig細胞腫)など、
- 副腎の病気:腫瘍(副腎腫瘍)や病気(先天性副腎皮質過形成症)が原因でホルモンが過剰に分泌されることがあります。
- その他: Testotoxicosis、McCune-Albright症候群、外因性のエストロゲン、アンドロゲンなど。
部分的思春期早発症
- 早期乳房発育症:女児において、1~3歳や思春期年齢になる前(6~7歳)に、乳房のみの軽度の発育がみられる。通常の思春期のように進行せず、成長促進も見られません。乳房発育は、消失するものもありますが、軽度腫大したまま持続することもあります。原因は、卵巣の自立性のエストロゲンの分泌促進と考えられていますが、思春期前にみられるのは、一時的なLHRHの分泌も考えられています。
- 6~7歳での乳房発育は、GnRH依存性思春期早発症との鑑別が必要です。
- 早期恥毛発育症:思春期前の年齢の小児(主に女児)で、他の二次性徴がなく恥毛だけの発育がみられる場合をいう。副腎性のアンドロゲンの分泌がその原因として推測されています。
[診断]
思春期早発症の診断には、以下の検査が行われます。
- 身体的評価: 身体的な発達や成長のパターンや、骨年齢を評価します。
- ホルモン検査: 血液中のゴナドトロピン、性ホルモンのレベルを測定します。
- 画像検査: 必要と思われた場合は、MRIやCTスキャンで脳や内分泌腺の異常を確認します。
[治療]
治療は思春期早発症の原因に基づいて行われます。
- ホルモン療法: GnRH依存性思春期早発症の場合、性ホルモンの分泌を抑えるためのホルモン療法(GnRHアナログ:リュープリン®)を4週ごとに皮下注射します。
- 手術: 腫瘍や病気が原因である場合、手術や放射線治療が必要となることがあります。
- 部分的思春期早発症は、原則的には治療の必要はありません。
- 定期的なフォローアップ: 思春期の進行状況や治療の効果を定期的に評価します。
[予後]
GnRH依存性思春期早発症に対し、GnRHアナログ(リュープリン®)治療を行うとゴナドトロピンを抑制し、その結果性ホルモンも抑制するので、思春期の進行を抑制することができます。性ホルモンを抑制することにより、骨年齢の進行が停滞し、成人身長に達するまでの期間が伸びます。しかし、性ホルモンによる思春期のスパート(成長促進)も抑制されるため成長率が低下し、GnRHアナログ(リュープリン®)単独治療で成人身長が改善するという強いエビデンスはありません。
また、治療後はゴナドトロピンの回復、精巣の成熟、定期的な月経の確立など、継続的に経過観察する必要があります。
思春期は小児から成人への移行の過渡期にあたる時期で、種々の成熟段階を経て身体全体が成人に成熟します。