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No.30 「小城成長研究の再解析1」


2021/09/01

「小城成長研究」は、佐賀県小城市において、佐賀医科大学解剖学講座を中心に、1979年から1996年まで小・中・高の児童生徒の成長の計測記録と骨年齢を縦断的に調査・研究した多数の健常小児の縦断的なデータの集積です。そのデータは、国立科学博物館に寄贈されていましたが、たなか成長クリニック院長田中敏章を委員長とした日本成長学会 成長研究委員会によって再解析が行われ、新しい臨床的知見が次々と報告されています。
 

小城成長研究データに基づく日本人男子の成長

第1編.生物学的定義に近似した成長学的な思春期開始の基準値の作成
 
田中敏章1,2、伊藤善也1,3、加藤則子1,4、佐藤亨至1,5、立花克彦1,6、横谷 進1,7、長谷川奉延1,8、村田光範1,9、磯島 豪1,10、吉井啓介1,11、井ノ口美香子1,8,12、篠田謙一1,13、高井省三1,14
1.日本成長学会 成長研究委員会 2.たなか成長クリニック 3.日本赤十字北海道看護大学臨床医学領域 4.十文字学園女子大学幼児教育学科 5.いさはい歯科医院 6.元JCRファーマ 7.福島県立医科大学ふくしま国際医療科学センター甲状腺・内分泌センター 8.慶應義塾大学医学部小児科 9.和洋女子大学保健センター 10.帝京大学医学部小児科 11.国立成育医療研究センター内分泌代謝科 12.慶應義塾大学保健管理センター 13.国立科学博物館人類研究部 14.元筑波大学大学院人間総合科学研究科
日本成長学会雑誌 2020;26:16-21.
 
要旨:健常男子において、身長計測に基づく成長学的な方法で、二次性徴に基づく生物学的思春期開始に近似する年齢と身体計測の基準値を作成した。小城成長研究の男子のうち、7回以上の縦断的測定記録のある対象者277例のうち、成長曲線を描いて成長スパートの開始時期を同定でき、前後に骨年齢が測定されていた227例を対象とした。1例ごとに成長曲線を描き、eye fit法により前思春期の2点を結んだ直線と思春期の成長スパート以後の2点を結んだ直線の交点を同定して、それより6か月前を思春期開始年齢として、その時の身長・体重・骨年齢を前後のデータから、思春期開始年齢で比例配分して計算した。身長SDスコア、BMI-SDスコアの算出には、2000年の標準値を用いた。最終計測時の身長を成人身長としたが、最終計測時に成長率が1cm/年以上であるときは、成長率依存予測法による残余成長を加えて成人身長とした。
思春期開始時の年齢、身長、体重、骨年齢の平均はそれぞれ、11.29±0.95歳、140.8±6.0 cm、34.8±6.3 kg、11.0±1.4歳であった。ピーク成長率時の年齢、身長、ピーク成長率の平均はそれぞれ、12.89±0.94歳、153.1±5.5 cm、9.9±1.3 cm/年であった。成人身長の平均は170.4±5.7 cm(-0.07±0.98 SD)で、思春期の伸びの平均は29.5±5.2 cmであった。
男子において成長学的な思春期開始時の基準値を作成した。男子の二次性徴の発達歴がしばしば得にくいことから、このような基準値が、思春期早発症、思春期遅発症の診断基準に反映されることが望まれる。
 

小城成長研究の男子の成長

第2編.成長学的な基準値を用いた思春期の縦断的な成長解析
 
曽根田峻1,2、田中敏章1,2、伊藤善也1,3、加藤則子1,4、佐藤亨至1,5、立花克彦1,6、横谷 進1,7、長谷川奉延1,8、村田光範、磯島 豪、吉井啓介、井ノ口美智子、篠田謙一、高井省三
1.日本成長学会 成長研究委員会 2.たなか成長クリニック 3.日本赤十字北海道看護大学臨床医学領域 4.十文字学園女子大学幼児教育学科 5.いさはい歯科医院 6.元JCRファーマ 7.福島県立医科大学ふくしま国際医療科学センター甲状腺・内分泌センター 8.慶應義塾大学医学部小児科 9.和洋女子大学保健センター 10.帝京大学医学部小児科 11.国立成育医療研究センター内分泌代謝科 12.慶應義塾大学保健管理センター 13.国立科学博物館人類研究部 14.元筑波大学大学院人間総合科学研究科
日本成長学会雑誌 2020;26:22-27.
 
要旨:小城成長研究の健常男子 227 例のデータから導き出された、生物学的思春期に近似する成長学的思春期開始の標準値(11.29±0.95 歳)をもとに、前思春期から成人身長までの縦断的な成長経過に関与する臨床因子について、Pearson の相関分析とステップワイズ重回帰分析を用いて解析した。
ステップワイズ重回帰分析により、思春期開始時年齢に寄与する有意な正の因子とし て、前思春期の身長 SD スコア(SDS)が選択された(|R|=0.261、R2=0.07)。思春期の伸びに相関する有意な臨床因子には、思春期開始時暦年齢が最も強い相関を示す負の因子 として、思春期開始時骨年齢と思春期開始時体重 SDS が負の因子として抽出された(|R|= 0.711、R2=0.51)。前思春期から成人身長までの身長 SDS の変化に相関する臨床因子には、思春期開始時[暦年齢-骨年齢]、身長、身長 SDS が正の回帰係数、前思春期身長SDS、前思春期 BMI SDS が負の回帰係数を示す有意な因子として選択された(|R|= 0.526、R2=0.28)。成人身長と有意に相関する前思春期・思春期開始時の臨床因子には、思春期開始時身長、思春期身長 SDS が正の因子として、思春期開始時骨年齢と前思春期の BMI SDS が負の回帰係数を示す因子であった(|R|=0.762、R2=0.58)。
前思春期の身長 SDS が大きいほど、思春期開始が早くなった。思春期の伸びは、思春期暦年齢が若いほど、思春期開始時骨年齢が若いほど、思春期開始時体重 SDS が小さいほど大きくなった。前思春期から成人身長までの身長 SDS の変化は、前思春期の身長SDS、BMI SDS が小さいほど、また思春期開始時[暦年齢-骨年齢]が大きく、思春期開始時身長、身長 SDS が大きいほど、身長 SDS の変化が大きくなった。成人身長は、思春期開始時の身長および身長 SDS が大きいほど、思春期開始時骨年齢が若く、前思春期BMI SDS が小さいほど、高くなった。
 

小城成長研究に基づく日本人男子の成長

第3編,思春期開始の時期が暦年齢、骨年齢に対する成長率に与える影響
 
田中敏章1,2、曽根田 瞬1,2、伊藤善也1,3、加藤則子1,4、佐藤亨至1,5、立花克彦1,6、横谷 進1,7、長谷川奉延1,8、村田光範1,9、磯島 豪1,10、吉井啓介1,11、井ノ口美香子1,8,12、岸 健太郎1,13、依藤 亨1,14、篠田謙一1,15、高井省三1,16
1.日本成長学会 成長研究委員会 2.たなか成長クリニック 3.日本赤十字北海道看護大学 4.十文字学園女子大学 5.いさはい歯科医院 6.元JCRファーマ 7.福島県立医科大学 8.慶應義塾大学医学部 9.和洋女子大学 10.帝京大学医学部 11.国立成育医療研究センター 12.慶應義塾大学保健管理センター 13.たちばな台クリニッック、14..大阪市立総合医療センター、15. 国立科学博物館 16.元筑波大学大学院
日本成長学会雑誌 2020;26:51-57.
 
要旨:小城成長研究データを用いて、思春期における暦年齢、骨年齢に対する成長率を思春期開始時期別群において検討した。対象は、7回以上の縦断的成長記録と骨年齢があり、eye fit法で成長学的思春期を同定できた男子227例。思春期開始時の暦年齢の平均-1SD未満を思春期が早い群(Group A:36例)、平均±1SD以内を思春期開始年齢が平均的な群(Group B:153例)、平均+1SDを超える群を、思春期が遅い群(Group C:38例)とした。
 ピーク成長率(PHV)時の平均(±SD)暦年齢、身長、骨年齢、ピーク成長率(PHV)はそれぞれ、12.88±0.94歳、153.1±5.5 cm、12.9±0.5歳、9.9±1.3 cm/年であった。平均PHVと平均PHV暦年齢は、Group A, B, Cそれぞれ、11.0 cm/年、9.9 cm/年、9.1 cm/年、および11.81歳、12.80歳、14.22歳と3群間に有意差が認められたが、平均PHV骨年齢はそれぞれ、12.7歳、12.9歳、13.0歳で、A、C群間のみ有意差が認められた。PHVの大きさは、思春期開始からPHV時までの骨年齢の進行度(Δ骨年齢/Δ暦年齢)と有意な正の相関(r=0.413、p<0.0001)を示した。
 思春期における成長率は、性ホルモンの作用によって上昇するが、PHVに達するのは男子では骨年齢13歳頃である。PHVの大きさは、思春期開始からPHVまでの骨年齢の進行度の速さに相関する。思春期が早いほうがこの間の骨年齢の進行度が速いために、PHVが大きく、思春期が遅い方がこの間の骨年齢の進行度が遅いために、PHVが小さい。

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