学術活動
Nol.11 「成人低身長になる機序-低身長思春期発来-」と「低身長思春期発来児にたいする蛋白同化ホルモン・性腺抑制併用療法の有効性」
第20回日本成長学会と第43回日本小児内分泌学会で、それぞれ「成人低身長になる機序-低身長思春期発来-」と「低身長思春期発来児にたいする蛋白同化ホルモン・性腺抑制併用療法の有効性」について発表したので、その要旨を掲載する。
【成人低身長になる機序-低身長思春期発来-】
低身長を主訴に国立小児病院/国立成育医療センター内分泌代謝科を受診した小児の自然成長を解析して、成人身長になる臨床的指標を検討した。対象は男子46名、女子37名で、両親の平均身長SDスコアは-1SD前後で、低身長の傾向にあった。前思春期の身長SDスコアは男女それぞれ-2.09SD、-2.28SDで、思春期開始時の平均年齢・平均身長は、男子12.46歳、133.5cm、女子11.3歳、128.1cmであった。平均成人身長は男女それぞれ159.3cm(-1.98SD)、147.1cm(-2.08SD)で、思春期の伸びの平均はそれぞれ25.8cm、18.9cmだった。
成人身長と強い相関を示した臨床因子は、男女とも思春期開始時の身長(男:r=0.78, p<0.0001、女子:r=0.65, p<0.0001)で、次いで前思春期の身長SDスコア、Target heightであった。
男子は135cm以上で思春期にはいると87.5%(14/16)が成人身長160cm以上だったが、135cm未満で思春期にはいると86.2%(25/29)が成人身長160cmにとどかなかった。女子は132.5cm以上で思春期にはいると87.5%(7/8)が成人身長150cm以上だったが、132.5cm未満で思春期にはいると82.8%(24/29)が成人身長150cmにとどかなかった(図1(a)(b))。
低身長を主訴とした小児において、成人身長に関与する最も重要な臨床因子は、思春期開始時身長であった。親の低身長傾向は、こどもの成人身長の要因となっていた。成人身長が男子160cm、女子150cmに達するためのcriticalな思春期開始身長は、男子135cm、女子132.5cmであった。
低身長思春期発来が、成人低身長になる主な機序である。
図1(a).低身長男子の思春期開始時身長と成人身長
図1(b).低身長女子の思春期開始時身長と成人身長
【低身長思春期発来児にたいする蛋白同化ホルモン・性腺抑制併用療法の有効性】
男子135cm未満、女子132.5cm未満で思春期にはいると(低身長思春期発来)、成人身長が男子160cm、女子150cmに達することが困難である。低身長思春期発来の男子21例、女子16例に対し、LHRHアナログ(リュープリン)と蛋白同化ホルモン(ウィンストロールまたはプリモボラン)の併用療法を行い、成人身長の改善を図り、無治療群の男子30例、女子29例と比較した。。
リュープリンは25~194μg/kg、ウィンストロールは女子1~2mg/日、男子2~4mg/日、プリモボランは女子2.5~5mg/日、男子5~20mg/日を投与した。
併用療法群の平均思春期開始年齢・身長は男女それぞれ、11.0歳、130.4cm、9.7歳、124.3cmで、思春期開始年齢が無治療群より有意に早かった。リュープリン開始年齢・身長の平均は、男子12.3歳、140.4cm、女子10.6歳、132.0cmで、平均治療期間は男子4.1年、女子3.6年だった。平均蛋白同化ホルモン投与期間は、男子3.4年、女子2.4年であった。
思春期の伸びの平均は、無治療群の男子26.4cm、女子19.5cmに対し、併用療法群は男子33.9cm、女子25.4cmと有意に高かった。
平均成人身長は、無治療群の男子156.9cm、女子145.7cmに対し、併用療法群は男子164.3cm、女子149.7cmと有意に高かった。併用療法群の性腺抑制療法開始時のGrowth Potential II法による予測成人身長の平均は、男子157.7cm、女子142.3cmだったので、実際の成人身長の方が有意に高かった。
無治療群で160cmに達したのは男子11.1%(2/18)、150cmに達したのは女子17.2%(5/29)であったのに対し、併用療法群はそれぞれ男子90.5%(19/21)、女子43.7%(7/16)であった(図2(a)(b))。
併用療法は、骨年齢の進行を緩やかにすることにより思春期の伸びを大きくして、成人身長を有意に高くした。しかし、治療期間が長期に及び、女子においては声が低くなる児があるので、女子は声が低くなっても身長が高くなりたいという児にしか、治療はできない。
図2(b).女子の無治療群と併用療法群の思春期開始時身長と成人身長