学術活動
Nol.5 「総説と原著論文の要約」
総説
Toshiaki Tanaka
Sufficiently Long-term Treatment with Combined Growth Hormone and Gonadotropin-Releasing Hormone Analog Can Improve Adult Height in Short Children with Isolated Growth Hormone Deficiency (GHD) and in Non-GHD Short Children
Pediatric Endocrinology Reviews 2007;5:471-481.
田中敏章
十分長期のGHとGnRH(LHRH)アナログの併用は、成長ホルモン分泌不全性低身長児や特発性低身長児の成人身長を改善する.
私が副編集長を務めている、小児内分泌の総説雑誌 “Pediatric Endocrine Reviews”に、私自身が総説を書きました。
成長ホルモン分泌不全性低身長症(GHD)における治療目的の1つは、成人身長の正常化による社会生活への適応である。遺伝子組換えヒト成長ホルモン(rhGH)の治療により、GHDの成人身長は改善してきたが、それでも日本では、単独GH分泌不全症(IGHD: isolated GHD)のrhGH治療後の平均成人身長は男性160.3cm(-1.80SD)、女性147.8cm(-2.03)SDと、必ずしも満足すべきものではない。また、学問的な正常範囲の下限の身長(-2SD)は、男性159.1cm、女性147.6cmであるが、社会的に患者さんやご両親が希望する最低成人身長は、男性160cm(-1.86SD)、女性150cm(-1.56SD)であり、臨床上はこの社会的正常身長を目指して治療する必要がある。したがって、女性の方が治療目標が高いことになる。
成人身長に一番強い相関を示すのが、思春期開始時の身長である。わが国におけるIGHDの成人身長の成績が満足行くものでない大きな原因は、不十分な投与量により、まだ十分catch-upしない身長で思春期に入ってしまうためである。我々はこの成人身長が低身長になる普遍的なメカニズムを「低身長思春期発来(EPFH: early puberty for height)」と呼んでいる。
思春期にはいると、性ホルモンによる思春期のスパートがかかるが、同時に性ホルモンは骨年齢を成熟させ、骨端融合させて成長を停止するという諸刃の刃の働きをもつ。従って、いったん思春期が始まると、同時に成長を止めるメカニズムも働いて、一定の伸びの後成人身長に達する訳である。
成長ホルモン分泌不全性低身長症や特発性低身長症において、GHとGnRHアナログ(リュープリン)を併用した主な論文10編を比較した。有効性がないと結論した4つの論文の併用期間が30ヶ月未満であったのに対し、有効であったとした4つの論文の併用期間はほぼ3年以上であった。
GHとGnRHアナログの併用療法は、重大な有害事象は認められないが、思春期の成熟が抑えられていることによる心理社会的問題や、GnRHアナログ終了後の性腺機能の回復には、注意を払う必要がある。
我々は、治療開始前に本人に対し、思春期が抑制されることにより起こりうる事象、治療効果の予測など十分説明し、それでも身長が高くなりたいと切望する子どもにしか治療を行わない。日本と外国では、身長と思春期の成熟に対する意識が異なるかもしれない。
GnRHアナログによる骨塩量獲得の抑制にも注意が必要である。非GHD性低身長においては、性腺機能の回復は100%だが、女子においては、初経は治療終了後2~3年に認められる。
併用療法は、大規模な無作為対照試験が行われていないので、未だに実験的な治療に位置づけられているが、長期の併用療法の結果から見れば、十分長く(3年以上)併用療法を行えば、思春期の伸びは大きくなり、成人身長が改善されると結論づけられる。
原著論文
Toshiaki Tanaka, Reiko Horikawa, Yasuhiro Naiki, Susumu Yokoya, Mari Satoh
Prediction of pubertal growth at start of estrogen replacement therapy in Turner syndrome
Clinical Pediatric Endocrinology 2008;17:9-15.
田中敏章、堀川玲子、内木康博、横谷 進、佐藤真理
ターナー症候群におけるエストロゲン補充療法開始時の思春期の伸びの予測
ターナー症候群のエストロゲン補充療法の開始時の決定において、開始時の身長や予測成人身長の関連で検討した論文はない。我々は、エストロゲン補充療法開始時に、成人身長まであとどれだけ伸びるか(思春期の伸び)を予測する方法を確立した。
1980-1989年に生まれたターナー女性16名(Group I )のデータより、思春期の伸びの予測式を重回帰分析を用いて、次のようにたてた。
思春期の伸び=-1.01x(エストロゲン開始時暦年齢)-0.326x(エストロゲン開始時身長)-1.779x(エストロゲン開始時骨年齢)+90.997
Group Iでは、この予測式による誤差は平均1.6±0.9cm (0.3~2.8cm)であった。
この予測式を、1980年以前に生まれたターナー女性11名(Group II)に当てはめたところ、その誤差は平均1.0±0.7cm (0.1~2.0cm)であった。
この予測式を用いることにより、患者さんの希望成人身長を考慮しながら、エストロゲン補充療法の開始時期を決定することが、可能になった。
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