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小槌
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No.16  「抄録 2011-2012」


2013/1/29

【論文抄録】

 

「特発性成長ホルモン分泌不全性低身長症の成長ホルモン治療による成人身長は改善してきた-低身長外来研究会共同研究-」

 
小川正道1,2、野瀬 宰1,3、岡田稔久1,4、上條隆司1,5、木下英一1,6、徳田正邦1,7、津留 徳1,8、松尾 敏1,9、平野岳毅1,10、橋本伸子1,11、小川治夫1,12、五十嵐 裕1,13、田中敏章1,14
1低身長外来研究会、2小川クリニック、3野瀬クリニック、4くまもと発育クリニック、5なごやかこどもクリニック、6きのしたこどもクリニック、7徳田こどもクリニック、8つるのぼるクリニック、9まつおこどもクリニック、10平野こどもクリニック、11橋本こどもクリニック、12おがわクリニック、13五十嵐小児科、14たなか成長クリニック
 

背景:

わが国の成長ホルモン分泌不全性低身長症(GHD)の成長ホルモン(GH)治療は、1975年より認可されているが、2001年までに報告されている治療後の成人身長は、治療量のためか海外と比較して、満足のいくものではない。
 

目的:

小児内分泌専門のクリニックにおけるGH治療による成人身長を検討する。
 

対象:

特発性GHDと診断された89名(男子56名、女子33名)で、重症11名、中等症41名、軽症37名だった。平均治療開始年齢は9.33±3.2歳、治療開始時平均身長SDスコアは、-2.76±0.62SDだった。
 

結果:

GH治療は、平均0.192±0.047mg/kg/週で開始され、平均6.5±2.8年間治療された。蛋白同化ホルモンの単独併用療法を受けた者5名、単独性腺抑制療法を受けた者4名、蛋白同化ホルモン+性腺抑制療法の併用を受けた者3名であった。成人身長の平均は、男女それぞれ163.9±4.6cm(-1.16±0.88SD)、150.9±5.7cm(-1.40±1.14SD)で、治療開始からの身長SDスコアの改善度は、男子1.52±0.97SD、女子1.50±1.13SDであった。成人身長SDスコアが-2SD以上になった割合は、男子84%、女子76%であった。男子の88.9%(40/45)、女子の90.3%(29/31)がTarget range内だったが、成人身長は男女ともTarget heightより有意に低かった。うち単独GH欠損症の成人身長の平均は、男女それぞれ163.7±5.0cm(-1.19±0.90SD、N=50)、150.5±5.5cm(-1.48±1.11SD、N=31)で、身長SDスコアの改善度は、男子1.37±0.88SD、女子1.43±1.05SDであった。
 

考察:

今回の報告は、いままでの日本の報告のなかで一番良い成績である。その原因は、治療開始年齢が若く、治療開始時身長SDスコアが高いなどの早期診断に加え、治療量を常に基準量を下回らないようにする、低身長思春期発来には蛋白同化ホルモンや性腺抑制療法を行うなどの治療法の進歩によると考えられた。
 

「SGA性低身長児における成長ホルモン治療効果の心理社会的特徴に関する検討」

 
高橋亮1)、長田久雄2)、横谷進3)、板橋家頭夫4)、清野佳紀5)、田中敏章6)
1)国際親善総合病院/桜美林大学加齢・発達研究所、 2)桜美林大学大学院、3)国立成育医療研究センター、4)昭和大学、5)大阪厚生年金病院、6)たなか成長クリニック
 

要旨:

本研究では、幼児後期から学童前期の発達段階にあるSGA性低身長児において、成長ホルモン(GH)治療によってもたらされる心理社会的特徴の経時的な変化について検討した。対象者はSGA性低身長児88名であり、心理社会的行動に関連する29項目の質問用紙を用いて保護者に回答を求めた。分析はGH治療開始時と治療1年後の間の評点の比較を行い、さらに低用量群(43名)と高用量群(45名)のそれぞれの群内においてもGH治療開始時と治療1年後の経時的な比較を行った。低用量群と高用量群を合わせた対象者全体(88名)においては「食欲がある」「好き嫌いがある」「よく眠る」「机や椅子が大きすぎて使いにくいようなことがある」「背が低いといわれることがある」「背が低いと思う」「普段の生活で気にかかることがある」、以上の7項目について治療開始時に比べて治療1年後の回答から得られた評価点の平均点が有意に高かった。併せて、1年間の成長ホルモン治療による身長SDスコアの改善度との相関について検討したところ「背が低いと思う」、「普段の生活で気にかかることがある」の2項目で身長SDスコアと心理社会的な特徴を示す質問項目において有意な正の相関が認められた。本結果から、GH治療を行うことによって日常生活においてさまざまな問題が改善していることが明らかとなった。これらの心理社会的特徴の視点からみた心理・行動面における向上は、GH治療により患児自身の身長が伸びることによって日常生活においての心理社会的問題が改善するという効果があることが示唆された。
 
Adult height after growth hormone treatment in Japanese children with idiopathic
growth hormone deficiency: analysis from the KIGS Japan database
Kenji Fujieda1, Toshiaki Tanaka2, Kazue Takano3, Kazuo Chihara4, Yoshiki Seino5 and Minoru Irie6 on behalf of the KIGS Japan Scientific Committee
1Department of Pediatrics, Asahikawa Medical College, 2Tanaka Growth Clinic, 3Department of Medicine II, Tokyo Women’s Medical University, 4Division of Endocrinology/Metabolism, Kobe University Graduate School of Medicine, 5Osaka Koseinenkin Hospital, 6Foundation for Growth Science, Tokyo, Japan
Abstract
 
成長ホルモン(GH)治療を受けた、特発性成長ホルモン分泌不全性低身長症(GHD)の成人身長に影響を及ぼす因子を検討した。KIGS(Kabi International Growth Study)に登録された374人の日本人GHD小児において、平均0.146 ± 0.023 mg/kg/週のGHが6.4 ± 2.6年間投与された。平均成人身長は、男子160.6 ± 6.3 cm (?1.75 SD; n = 232)、女子146.9 ± 7.3 cm (?2.20 SD; n = 158)であった。GH治療による身長SDの改善度は、男女それぞれ2.13SD、1.66SDであった。重症GHDのほうが、中等症、軽症に比べて改善度が大きかった。男子においては、ゴナドトロピン分泌不全を合併している症例の平均成人身長(166.8cm)は、単独GHDで性腺抑制療法を受けた症例(151.9cm)と受けなかった症例(160.5cm)より有意に高かった。女子においては、それぞれ149.6cm、146.7cm、146.9cmで、有意差がなかった。
重症GHDのほうがにおいて重回帰分析を行ったところ、ゴナドトロピン分泌不全、治療開始時の身長SDスコア、治療1年目の成長率の3つの因子が独立に成人身長に影響を及ぼした。

「ターナー症候群におけるエストラジオール貼付剤によるエストロゲン少量療法から開始した二次性徴の成熟と成人身長への効果」

 
田中敏章12、内木康博2、堀川玲子2
1たなか成長クリニック、2国立成育医療研究センター 内分泌代謝科
 

要旨

 日本小児内分泌学会の「ターナー症候群におけるエストロゲン補充療法ガイドライン」に従って、12~15歳の間にE2貼付剤を用いたエストロゲン少量療法から補充を開始し、成人身長に達した5例を経験した。
 全例が成長ホルモン(GH)治療を受けており、GH治療開始時の平均年齢は8.33歳、平均身長SDスコアは-3.02SD、GH終了時の平均年齢は15.85歳、平均身長SDスコアは-1.82SDで、平均治療年齢は7.5年だった。3例は、蛋白同化ホルモン(スタナゾロール 1mgまたはメサノロン 2.5mg)の投与を受けた。
 全例E2貼付剤により、性腺補充療法を開始した。初期投与量は全例1/8枚(0.09mg)を2日ごとに貼り替えで開始した。E2貼付剤開始平均年齢は13.5歳(12.5歳~14.3歳)、平均身長は141.6cm(139.1cm~149.2cm)であった。E2貼付剤を1/4枚(0.18mg)、1/2枚(0.36mg)と増量していくことにより、緩徐な乳房の発育、骨年齢の進行が認められた。5例の初経年齢は14歳7ヵ月~18歳4ヵ月で、E2貼付剤1/4枚~1枚の治療中に4例に初経が認められたが、1例はE2貼付剤1枚でも初経が無く、吸収の個人差や、子宮に対するエストロゲン効果の、個人差があると考えられた。
 成人身長には、E2貼付剤開始より3~4年で達し、平均は149.3±2.5cm(146.2~152.5cm)であった。
 ガイドラインに従ったE2貼付剤によるエストロゲン少量療法から開始した性腺補充療法により、臨床的にほぼ満足のいく緩徐な二次性徴の発育と成人身長が得られた。E2貼付剤によると考えられる有害事象は、認められなかった。
 

「ヒト成長ホルモン製剤専用針なし圧力注射器ツインジェクター?EZⅡとペン型注入器BDペンジェクターTM2・BDペンジェクターTM3との利便性の比較検討」

 
田中 敏章1)、森 理2)、小林 昌和3)、安原 昭博4)、具志堅 美由紀5)、今田 進6)、
橋本 伸子7)、相川 務8)、東出 崇9)、村下 眞理10)
1)たなか成長クリニック、2)もりもり小児科、3)きりんこばやし小児科、4)安原こどもクリニック、5)ぐしけん小児科、6)こんだこども医院、7)橋本こどもクリニック、8)相川ステーションクリニック、9)はぐはぐキッズクリニック、10)むらしたこどもクリニック
 

要旨

 ヒト成長ホルモン専用針なし圧力注射器ツインジェクター?EZⅡとペン型注入器BDペンジェクターTM2・BDペンジェクターTM3を用いて、成長ホルモン治療を初めて開始する症例に対し注入時における痛みおよび注入器の操作性・使用感等、また、患者に代わって注射する場合の保護者等の精神的負担について比較検討した。調査結果は痛み、操作の簡便性についてツインジェクター?EZⅡが優位であった。針なし注射器は針を怖がる患児にとって有用なデバイスであり、患者に代わって注射する場合の保護者等の精神的負担についても軽減することが期待され、コンプライアンスとQOLを高めることにより治療効果も高めることが望まれる。

「健常小児の0歳から17歳までの身長SDスコアの変化」

田中敏章(たなか成長クリニック)
 

要旨

 秋田県の健常小児2731名(男子1366名、女子1365名)の出生時から17歳までの縦断的成長記録を解析して、こどもの身長の程度(身長SDスコア)がどのように変化するのかを検討した。0歳から3歳、3歳から6歳、6歳から17歳までの変化を検討したが、それぞれICP(Infant-Childhood-Puberty)モデルの乳幼児期、前思春期、思春期に相当すると考えられる。
 身長SDスコアが出生時から17歳時まで同じ程度で成長する小児は、全体の12.2%で、多くの小児は身長SDスコアが変化した。変化する時期は、0歳から3歳までの乳幼児期に相当する時期に一番大きく、30.6%の小児が0.5SD以上大きくなり、35.6%が0.5SD以上小さくなった。次いで思春期に相当する6歳から17歳の変化が大きく、23.9%の小児が0.5SD以上大きくなり、22.5%が0.5SD以上小さくなった。前思春期に相当する3歳から6歳までは、あまり変化が見られなかった。身長SDスコアがほとんど変化しない±0.5SD以内の小児の割合は、0歳から3歳、3歳から6歳、6歳から17歳までの時期で、それぞれ35.8%、70.5%、53.6%であった。
身長SDスコアが変化する方向は、身長SDスコアが大きい子は低下する方向、小さな子は上昇する方向で、その変化の大きさも0歳から3歳までが、次いで、6歳から17歳までで、3歳から6歳までは一番少なかった。6歳から17歳までにおける変化は、思春期が早いほど身長SDスコアが低下する方向、遅いほど身長SDスコアが上昇する方向に変化した。
17歳時身長SDスコアは、6歳時身長SDスコアと最も強い正の相関を示したが、3歳時身長SDスコアにもすでに強い相関を示しており、乳幼児期の成長が成人身長に重要であることを示唆している。
 
Efficacy and safety of up to 8 years of long-term growth hormone treatment in short children born small for gestational age in Japan: Analysis of the subpopulation according to the Japanese guideline.
Toshiaki Tanaka *1, Susumu Yokoya *2, Kenji Fujieda *3, Yoshiki Seino *4, Hiroshi Tada *5, Jun Mishina *6, Susumu Saito *7, Ami Takata *7, Nobuhiko Ohki *7
*1 Tanaka Growth Clinic, *2 Department of Medical Subspecialties, National Center for Child Health and Development, * 3 Department of Pediatrics, Asahikawa Medical University, *4 Osaka Koseinenkin Hospital, *5 Toho University School of Medicine, *6 Medical corporation Sanchikai, *7 Pfizer Japan Inc.
 
国内ガイドラインの治療開始基準(身長SDスコアが-2.5 SD未満)に合致する日本人SGA性低身長症児(44例)を対象に成長ホルモン(GH)製剤の8年間投与の中間成績となる長期治療効果と安全性を検討した.
身長SDスコアは試験期間を通じて改善し,0.033/0.067 mg群の平均身長SDスコアはベースラインの-3.5 SDから8年後には-1.6 SDに,0.067/0.067 mg群では同様に-3.4 SDから-1.9 SDに改善した.治療4年以降Δ身長SDスコアは約2SDのまま推移した.? IGF-Iと身長の伸びとの間には,投与開始1年後,2年後ともに有意な正の相関が見られた(r = 0.415,0.488)
GH投与開始年齢と思春期開始年齢との間には相関は無く,思春期開始年齢は健常小児とほぼ同じであった.
結論として,8年間のGH投与によってSGA性低身長症の低身長は臨床的に有意な改善が認められ,安全性に関する問題は認められなかった.

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